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名古屋地方裁判所 昭和39年(行ウ)43号 判決

名古屋市北区清水町三丁目四五番地

原告

井上良男

右訴訟代理人弁護士

尾関留士雄

右訴訟復代理人弁護士

高木輝雄

恒川雅光

同区金作町四丁目一番地

被告

名古屋北税務署長

高橋多嘉司

右指定代理人

伊藤好之

中山実好

鈴木洋欧

大岡進

主文

一  原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

(原告)

「原告の昭和三七年分所得税について、被告のなした昭和三八年八月七日付更正処分中、同三九年一〇月五日付審査裁決により維持された、総所得金額五〇万三、〇〇〇円のうち、一五万円を超える部分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

(被告)

主文同旨の判決。

第二、当事者の主張

(請求の原因)

一、原告は、名古屋東税務署長に対し、昭和三七年分所得税について、総所得金額を一五万円とする確定申告をした。

二、名古屋東税務署長は、昭和三八年八月七日総所得金額を八二万四、〇〇〇円とする更正処分をなした。

三、原告は、同月三一日名古屋東税務署長に対し、右処分について異議申立をしたが、同署長は、これを棄却し、昭和三八年一一月二九日付で原告に通知したので原告は、同年一二月一八日名古屋国税局長に対し、審査請求をしたところ、同局長は、昭和三九年一〇月五日総所得金額を五〇万三、〇〇〇円に減額する旨の裁決をなした。

四、名古屋東税務署長の権限は、昭和三九年六月二五日付大蔵省組織規定の一部改正により、同年七月一日以降被告に承継された。

五、原告は、申告額を超える所得はないので、本件更正処分は、右申告額を超える限度で違法であり取消さるべきである。

(請求原因に対する認否)

請求原因一ないし四の事実はすべて認める。

(被告の主張および反論)

一1、原告は、木工業(主に巣箱等の製造)を営む者であるところ、被告において調査した結果、原告の昭和三七年分総所得金額は、八一万二、〇二一円と判明したものであつて、その算出の根拠は次のとおりである。

2  総収入金額三二九万八、三四七円((一)+(二)+(三))

(一) 売上金額 三二〇万九、三〇二円(後記5のとおり)

(二) 雑収入 一万八、〇〇〇円

(三) 加工料収入 七万一、〇四五円

3  総必要経費二四八万六、三二六円(左記(一)ないし(十二)総合計)

(一) 売上原価 一八三万五、三三八円(後記6のとおり)

(二) 荷造運賃 四万〇、八八〇円

(三) 水道光熱費 四万六、〇四〇円

(四) 旅費通信費 一万五、四四四円

(五) 修繕費 二、七〇〇円

(六) 消耗品費 二万九、五九九円

(七) 燃料費 四、二八〇円

(八) 雑費 六、六〇〇円

(九) 雇人費 三六万九、〇八五円(後記7のとおり)

(十一) 地代、家賃 三万六、三六〇円

(十一) 機械等賃借料 三万円

(十二) 専従者控除 七万円

4  総所得金額八一万二、〇二一円(2-3)

5  売上金額の明細は、次のとおりである。

(一) 株式会社鳥徳商店(昭和三九年三月桜商事株式会社と商号変更、以下訴外会社という。)に対する売上額二九四万〇、八二二円

(二) その他に対する売上額 二六万八、四八〇円

(1) 原告は、被告の調査に対し、売上先は訴外会社のみであると主張してきたが、調査の結果、他にも売上先のある事実が判明した。

そこで被告は、原告が巣箱を製造するために必ず使用する丁番の仕入数量かと売上金額を算定した。

(2) 原告の製造する巣箱には、巣引箱(大)と立巣箱があり、巣引箱(大)には丁番(大)二個を、立巣箱(ボタン立巣を除く。)には、丁番(小)二個を、それぞれ使用するものであるところ、原告が係(争)年度において仕入れた丁番の数量は、大が八、八〇〇個、小が九、〇〇〇個である。

また丁番の減損数量は、仕入総数の二パーセントであるので、丁番の前記仕入総数から右減損数量および原告が訴外会社に販売した丁番の数量を差引き、残数量から原告が製造した巣箱の総数を算定し、さらに、右製品総数から前記(一)の訴外会社に対する販売数を差引いた数量が原告の訴外会社以外に販売した数量と認められるので、その売上額は次のア、イの合計額となる。

なお、売上単価は、訴外会社が小売店に販売する卸売(価格巣引箱(大)は五〇〇円、立巣箱は一二〇円)をもつて、原告の売上単価とみなした。

ア、巣引箱(大)の計算

(丁番(大)の仕入総数) (減損数量) (訴外会社への販売数)

八、八〇〇個-一七六個-四〇〇個=八、二二四個

(製造総数) (訴外会社への販売数) (訴外会社以外への販売数)

四、一一二箱-三、六〇六箱=五〇六箱

(内ボタン立巣五〇箱)

(売上単価)

五〇六箱+五〇〇円=二五万三、〇〇〇円

イ、立巣箱の計算

(丁番(小)の仕入総数) (減損数量)

九、〇〇〇個-一八〇個=八、八二〇個

(製造総数) (訴外会社の販売数)

四、四一〇箱-四、二八一箱=一二九箱

(売上単価)

一二九箱×一二〇円=一万五、四八〇円

6 売上原価の明細は別表(売上原価明細表)の「被告主張額」欄記載のとおりである。

7 雇人費の明細は次のとおりである。

(一)  池田忠吉に対する給料 一六万四、七〇〇円

(二)  岩間孝に対する給料 一四万七、三八五円

(三)  永井秀道に対する給料 五万七、〇〇〇円

原告は、右のほかに伊藤光に対して五万五、〇〇〇円の給料を支払つた旨申告したが、その事実はなかつたので被告はこれを否認した。

8 以上により、原告の総所得金額は、八一万二、〇二一円であるから、右金額の範囲内でなされた本件処分は適法である。

二、前記一、2(三)記載の加工料収入および同5(二)記載のその他に対する売上金額についての主張は、本訴提起後の新な主張であることは争わないがかかる主張をなすことは許されないものでない。

すなわち、本訴における審理の対象は、本件更正処分において認定された所得金額が客観的に存在するか否かの点に存するから、処分庁が当該処分において認定した課税標準等または税額等の数額が、処分前にすでに一義的に存在するはずである実際の課税標準等または税額等を超えていない限り、当該処分は適法なものとして維持されるべきであるから、処分当時、根拠とされなかつた事由を新たに主張することは許される。

(被告の主張に対する認否および原告の主張)

一1、被告の主張1のうち、原告が木工業を営む者であることは認めるが、その余は争う。

2  同2のうち、(二)は認めるが(三)は否認する。

3  同3のうち、(二)ないし(八)、(一〇)ないし(十二)は、すべて認める。

4  同5のうち、(一)は認める。

(二)のうち丁番の仕入総数および売上単価は、知らない。

丁番の減損数量は否認する。減損数量は、仕入総数の五パーセントを超える。

被告主張の推計方法は、係争年度に仕入れた丁番全部を当該年度中に使用するとは断定できないこと、製造過程で丁番が破損することがあること等を考慮しないので、合理的とはいえない。

5  同6のうち、別表3ないし6は、すべて認める。

同表1、2、10については「原告主張額」欄記載のとおりである。従つて、売上原価は、合計二〇八万五、九二四円である。

6  同7のうち、(一)ないし(三)は、すべて認める。

雇人費として、原告は右の外に伊藤光に対して五万五、〇〇〇円を支払つた。従つて、雇人費は、合計四二万四、〇八五円である。

二、原告の本件係争年度における必要経費として交際費一万円を計上すべきである。

三、被告の主張一、2(三)加工料収入(七万一、〇四五円)および同5(二)その他に対する売上金額(二六万八、四八〇円)についての主張は、本訴提起後になされたものであるところ、本訴の訴訟物は、本件更正処分の違法性であるから、右判断の基準時は、処分時である。

従つて、本件処分の根拠とされなかつた右加工料収入およびその他に対する売上金額についての主張は許されない。

第三、証拠

(原告)

甲第一号証ないし、第四号証、同第五号証の一ないし一二、同第六号証の一ないし四、同第七号証の一ないし三、同第八号証の一ないし一一、同第九号証の一ないし七、同第一〇号証の一ないし一二、同第一一号証の一ないし五、同第一二号証の一ないし四、同第一三号証の一、二、同第一四、一五号証を提出し、証人井上周子の証言(第一、二回)を援用し、乙第二、三号証の成立は認め、同第一号証のうち、官署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は不知、その余の乙各号証の成立は不知。

(被告)

乙第一ないし、第三号証、同第四号証の一ないし三、同第五ないし第一一号証を提出し、証人藤井昇、同飯島迪郎、同城田巌、同中山実好、同松橋靖の各証言を援用し、甲第六号証の一ないし四の成立は不知、同第一五号証の成立は否認し、その甲各号証の成立は認める。

理由

一、原告主張の経緯で本件更正処分(審査裁決による一部減額)がなされたことは当事者間に争いがない。

二、そこで、被告の主張について順次判断する。

1  売上金額

(一)  訴外会社に対する売上金額について

訴外会社に対する売上金額が二九四万〇、八二二円であることは当事者間に争いがない。

(二)  訴外会社に対する売上金額について

(1) 証人藤井昇の証言により真正に成立したものと認めることができる乙第四号証の一ないし三、証人城田巌の証言により真正に成立したものと認めることができる。同第五号証、証人中山美好の証言により真正に成立したものと各認めることができる同第七号証、同第九号証ないし同第一一号証、証人飯島廸郎、同松橋靖、同藤井昇、同井上周子(第一回、一部)の各証言に弁論の全趣旨を総合すると次の事実を認めることができる。

原告が製造する巣箱には、巣引箱(大)、巣引箱(小)、ボタン立巣、セキセイインコ用立巣(以下、単に立巣箱という。)等があり、その売上先は、訴外会社のみでなく本件係争年当時、合資会社鳥徳鳥獣店その他と取引があつたこと、右取引の調査については原告の協力を得ることができず、被告は巣引箱に使用する丁番の仕入数量からその売上金額を算定したこと、前記巣引箱(大)およびボタン立巣には丁番(大)二個を、立巣箱には丁番(小)二個をそれぞれ使用し、他の巣箱には丁番は使用しないこと、また、巣引箱(大)および巣引箱(小)にはツマミを一個ずつ使用し、他の巣箱にはツマミは使用しないこと、本件係争年度における、丁番(大)の仕入総数は、八、八〇〇個、丁番(小)の仕入総数は、九、〇〇〇個、ツマミの仕入総数は五、五二〇個であること、丁番およびツマミの仕入れは必要の都度行うので、在庫は殆どないこと、仕入れた丁番の中には不良品があつたり、巣箱を製造する過程で破損する場合があるが、右不良品および破損の数は、たかだか仕入総数の二パーセントを越えるものでないこと、原告は、本件係争年度中に訴外会社に、丁番(大)を四〇〇個、ツマミを二〇〇個、巣引箱(大)を三、五五六箱、巣引箱(小)を一、六〇〇箱、ボタン立巣を五〇箱、立巣箱を四、二八一箱、各売却したこと、訴外会社が小売店に売却する巣箱の卸売価格は、当時、巣引箱(大)が五〇〇円、立巣箱が一二〇円であつたこと、原告が当時訴外会社へ売却したボタン立巣の価格は、一一五円であつたこと等の各事実を認めることができる。

証人井上周子の証言のうち右認定に反する部分は信用できないし、ほかに右認定を覆えすにたりる証拠はない。

(2) そこで、右に認定した各事実をもとに、丁番およびツマミの仕入総数から原告の訴外会社以外の取引に対する売上額を算定すると次のとおりになる。

(3) 巣引箱(大)およびボタン立巣の売上額について

前記のとおり、丁番(大)の仕入総数は、八、八〇〇個であつて、不良品および破損による減損数量は、一七六個(八、八〇〇個の二パーセント)とみるべきであるから、巣引箱(大)およびボタン立巣を製造するために使用された丁番は、右八、八〇〇個から右一七六個および訴外会社に販売した四〇〇個を控除した八、二二四個である。そうすると、右丁番によつて製造された巣引箱(大)およびボタン立巣は、合計四、一一二箱(八、二二四×1/2)であるところ、原告は、右のうち、巣引箱(大)を三、五五六箱、ボタン立巣を五〇箱、それぞれ訴外会社に売却したので、訴外会社以外に売却した巣引箱(大)およびボタン立巣は合計五〇六箱(四、一一二箱-三、五五六箱-五〇箱)となる。

ところで、ツマミの仕入総数は、前記のとおり五、五二〇個であり、右のうち二〇〇個を訴外会社に売却したので、原告において、巣引箱(大)および巣引箱(小)を製造するために使用したツマミは、五、三二〇個である。そうすると、右ツマミによって製造された巣引箱(大)および巣引箱(小)は、合計五、三二〇箱であるところ、原告は、右のうち、巣引箱(大)を三、五五六箱、巣引箱(小)を一、六〇〇箱、それぞれ訴外会社に売却したので、訴外会社以外に売却した巣引箱(大)および巣引箱(小)は、合計一六四箱(五、三二〇箱-三、五五六箱-一、六〇〇箱)となる。右のうち、巣引箱(大)の占める割合について検討するに、前掲乙第九号証によれば、合資会社鳥徳鳥獣店は、係争年当時、原告から巣引箱(大)を一年に二〇〇箱程度買入れていた事実を認めることができる(乙第九号証には、蚊除網のついた巣引箱と記載されているが、蚊除網のついた巣引箱は、巣引箱(小)ではなく、巣引箱(大)であることは、前掲乙第一一号証に照らし明らかである。)ので、右一六四箱は、すべて巣引箱(大)とみるのが相当である。

なお、ツマミの減損数量については、巣引箱(大)の訴外会社以外への販売数が前記一六四箱であり、これと前掲乙第九号証を併せ考えると、減損を考慮しないのが相当であると思料する。

そうすると、原告が訴外会社以外に販売した巣引箱(大)は、一六四箱、ボタン立巣は三四二箱(九〇六箱-一六四箱)と推計することができる。

巣引箱(大)の売上単価は、先に認定した訴外会社の卸売価格五〇〇円と同額と推定するのが相当であるから、巣引箱(大)の売上額は、八万二、〇〇〇円(一六四箱×五〇〇円)となる。

ボタン立巣の売上単価についても訴外会社の卸売価格と同額と推定するのが相当である。しかし、前掲乙第四号証の一および同第七号証によれば、右卸売価格は、原告の訴外会社に対する売上単価一一五円を超えるものいうべきであるが、それがいくらであるかは明らかにしえないので、これを一一五円として計算するのが相当である。そうすると、ボタン立巣の売上額は、三万九、三三〇円(三四二箱×一一五円)となる。

よつて、原告の係争年における巣引箱(大)およびボタン立巣の売上額は、合計一二万一、三三〇円(八万二、〇〇〇円+三万九、三三〇円)となる。

なお、ボタン立巣の売上額について被告は明確に主張しないが、巣引箱(大)についての主張中に右主張が含まれているとみることができるので前記のとおり認定するのが相当である。

(4) 立巣箱の売上額について

前記のとおり、丁番(小)の仕入総数は、九、〇〇〇個であつて、その減損数量は一八〇個(九、〇〇〇個の二パーセント)とみるべきであるから、立巣箱を製造するために使用された丁番は、右九、〇〇〇個から右一八〇個を控除した八、八二〇個である。そうすると、右丁番によつて製造された立巣箱は、合計四、四一〇箱(八、八二〇×1/2)であるところ、原告は、右のうち、四、二八一箱を訴外会社に売却したので、訴外会社以外に売却した立巣箱は一二九箱(四、四一〇箱-四、二八一箱)となる。

立巣箱の売上単価は、先に認定した訴外会社の卸売価格一二〇円と同額と推定するのが相当であるから、立巣箱の売上額は、一万五、四八〇円(一二九箱×一二〇円)となる。

(5) 訴外会社以外に対する売上額についての右推計方法は仕入丁番数、ツマミ数等明確な数額に基づくものであり、かつ、原告の製造販売する巣引箱等との関連性が前記のとおりであることから考えると、右は合理的な推計方法ということができる。

原告は、丁番の仕入総数から製品の売上額を算定することは、係争年度に仕入れた丁番全部を右年度に使用すると断定できないことや、巣箱の製造過程で丁番が破損することがあること等から相当でない旨主張するところ、前記認定のとおり、丁番の在庫品は殆どなかつたし、破損については、前述のとおりこれを考慮したうえで製品数を算定しているので、原告の主張は理由がないし、ほかに前記推計方法を合理的でないとする理由はない。

(6) 以上認定したところによれば、原告の訴外会社以外に対する売上金額は、合計一三万六、八一〇円(一二万一、三三〇円+一万五、四八〇円)となる。

2  雑収入

原告が昭和三七年中に雑収入一万八、〇〇〇円を得たことは、当事者間に争いがない。

3  加工料収入

証人中山実好の証言により真正に成立したものと認めることができる乙第八号証によれば、原告は、有限会社恒川製函所の依頼を受けて昭和三七年中に合計七万一、〇四五円(内訳、一月一、〇七五円、二月八、一七五円、三月一万六、一五〇円、四月九八〇円、五月一万七、六七〇円、六月七、四九五円、七月三、二五〇円、八月一、八九五円、九月四、六六五円、一〇月三、三五〇円、一一月三、〇四〇円、一二月三、三〇〇円)の函打ち(板加工)をなしたことを認めることができる。

4  従つて、原告の昭和三七年中の総収入金額は、合計三一六万六、六七七円(1(一)+1(二)+2+3)となる。

5  売上原価

(一)  別表3ないし9については、すべて当事者間に争いがない。

(二)  同表1について

官署作成部分については成立に争いがなく、その余の部分について証人飯島迪郎の証言により真正に成立したものと認めることができる乙一号証によれば、原告は、有限会社恒川製函所から昭和三七年中に合計一七〇万九、八二八円の板材を買入れた事実を認めることができる。

原告は、右仕入額は一八一万七、〇四九円である旨主張する。なるほど、成立に争いのない甲第五号証の一ないし一二によれば、同社は、昭和三六年一二月二六日から昭和三七年一二月二五日までの間に、原告に対し合計一八一万七、〇四九円の商品を納入した事実を認めることができるが、右事実から直ちに同社の原告に対する昭和三七年中の売上額が一八一万七、〇四九円であるということはできない。けだし、昭和三六年一二月二六日から同年末までの納品合計と昭和三七年一二月二六日から同年末までの納品合計が同額であることを認めさせる証拠はないし、右乙第一号証に反し、同額であるとの推定も許されないからである。

よつて、原告の有限会社恒川製函所からの仕入額は一七〇万九、八二八円である。

(三)  同表2について

原告は、〈タ〉材木店から昭和三七年中に合計一三万一、五〇〇円の買入れをなした旨主張するが、証人井上周子の証言(第一回)はたやすく信用できないし、他にこれを認めさせるにたりる証拠がない。

もつとも甲第六号証の一ないし四には、一応原告の主張に副う記載があるとしても、右書証の作成者が誰であるかは本件全証拠によるも不明であるし、少くとも、証拠調の段階において、書証の原本は紛失していることが判明したことにより右主張事実の証拠に供することはできない。

従つて、原告が〈タ〉材木店からその主張にかかる仕入れをなしたとの事実を認めることはできない。

(四)  同10について

成立に争いない甲第一四号証によれば、原告は、合資会社真野木材商会から昭和三七年七月二日一万二、〇五〇円の材木を買入れた事実を認めることができる。

原告は、同社から同年中に合計二万三、九一五円の仕入れをなした旨主張するけれども、措信できない。証人井上周子の証言(第一回)を措いて他に証拠はないので右事実を認め先の認定を覆えすことはできない。

(五)  以上認定したところおよび前記争いのない各事実によれば、原告の売上原価は、合計一八三万五、三三八円である。

6  雇人費

原告が使用人池田忠吉、同岩間孝、同永井秀道に対して合計三六万九、〇八五円の給料を支払つたことは、当事者間に争いがない。

証人井上周子の証言(第二回)によつて真正に成立したものと認めることができる甲第一五号証および同証人の証言(第一、二回)を総合すると、原告は、昭和三七年三月ごろ伊藤光を雇入れ、同人に対し同年中に五万五、〇〇〇円(一ケ月一万一、〇〇〇円、同人は七月末退職。)の給料を支払つた事実を認めることができる。従つて雇人費は、合計四二万四、〇八五円である。

7  荷造運賃(四万〇、八八〇円)、水道光熱費(四万六、〇四〇円)、旅費通信費(一万五、四四四円)、修繕費(二、七〇〇円)、消耗品費(二万九、五九九円)、燃料費(四、二八〇円)、雑費(六、六〇〇円)、地代、家賃(三万六、三六〇円)、機械等賃借料(三万円)、専従者控除(七万円)については、すべて当事者間に争いがない。

8  交際費

原告は交際費として一万円を支出した旨主張する。しかし、右に副う証人井上周子の証言(第一回)は措信できないし、他にこれを認めさせるにたりる証拠がないので、原告の右主張事実は認めることができない。

9  以上により、原告の本件係争年における総必要経費は、合計二五四万一、三二六円となる。

10  そうすると、原告の昭和三七年分、総所得金額は、前記総収入金額三一六万六、六七七円から前記総必要経費二五四万一、三二六円を控除した六二万五、三五一円となる。

原告は、被告が本件において主張する加工料収入七万一、〇四五円および訴外会社に対する売上金額二六万八、四八〇円は、新たな課税根拠に基づくものであるから、主張自体許されないと主張するところ、右各主張が本訴提起後になされたものであることは当事者間に争いのないところである。ところで更正処分が適法がどうかの判定は、結局のところ当該更正処分が客観的に存在した課税標準等または正当な税額等の範囲内でなされたか否かにより決定されるべき事柄である。そうすると、本件においては、右にいう客観的に存在した課税標準等または正当な税額等が審理の対象であり、被告の前記主張は攻撃方法として許されるから、原告の右主張は失当であつて、これを採ることはできない。

四、そうすると、本件更正処分は、原告の総所得金額について、前示六二万五、三五一円の範囲内である五〇万三、〇〇〇円としてなされたものであるから、正当である。

五、よつて、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田義光 裁判官 下方元子 裁判官 樋口直)

別表

売上原価明細表

〈省略〉

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